【証券】自分の都合に合わない顧客、危険な問題客ばかりを引き継ぎと称してこちらに回してくる先輩【20代後半】

職種：証券業
年齢：20代後半

3年ちょっとやってとにかくボロボロになりました。最初は新規開拓。地図で1軒1軒の家をチェックして、毎日数百枚の名刺と手紙を投函。それとともに、既存顧客への挨拶回り。

バブルの崩壊直後だったから、それまで景気の良さで繋がれた営業と顧客の関係もずたずた。寿退社を理由に、バブル時代を顧客と楽しんだ先輩はどんどん辞めていく。先輩たちは3年以上勤めているので退職金もばっちり出る。

そんな先輩たちの置き土産は、馴れ合い売買をはじめとする、口約束に等しい取引がまだ許された時代の証券貯蓄。すべてが修復不可能な元本割れを起こしていて、それに対する詫びに顧客の自宅を１軒１軒回るのが入社１年目の仕事だった。

今であれば法制もずいぶん金融会社の立場に立ったものが策定されているが、当時はそんなものなかったから、顧客は元本割れの個人的恨みを平気で営業担当者にぶつけてきた。

自腹を切ってケーキや花の鉢植えをプレゼントしたことも。顧客は平気で「～買ってきて」などという。えんえんと数時間、景気のいい時の話、悪くなってからの話、そしてそこから発展する恨みの話、そんなものを一生懸命聞き続け、なおも新規開拓を毎日行った。まるで自分という人間性が非難されているかのように聞こえてくるような、錯覚を起こしそうな日々だったし、実際錯覚を起こし始めていた。

会社に帰れば損切りのやり方ばかり教えてくる上司。顧客の損金を気にせずに元本割れの資金を新たな貯蓄商品に回すことに対して、感覚がマヒしてしまった。

自分で学ぶものだなどと言いながら、自分の都合に合わない顧客、危険な問題客ばかりを引き継ぎと称してこちらに回してくる先輩、競争相手として上司先輩から焚き付けられて仲良くもなれない同期。同期は枕営業に走った。

他人に対する笑顔も同調もすべて嘘になってしまい、自分が本来どんなことで笑い、どんなことで泣き、どんなことを好きだと思っているのかまでわからなくなった。莫大なノルマに追い込まれて、勇み足を踏み、説明を言った聞かないで顧客と訴訟ごとにもなった。

付き合っている人への顔の合わせ方が分からなくなった。誰が味方か誰と分かり合うべきかもわからない中、課長代理の説得するような口車に乗って身体を奪われた。残ったのは借金のみ。付き合っていた人は、出世してキラキラ光るような道を、出来婚した浮気相手と共に振り返らずに進んでいった。

残ったのは借金だけではないか。日平均20キロはパンプスで歩いてできた無数の足のタコと歪んだ爪、摩耗した体の骨と増えまくった白髪。辞める理由というよりは、よく続けたな、と思います。あんな我慢と沈黙は、一生のうちでもうやることもないと思います。