【美容】あなたは顔で採られたんですよ【20代後半】

年齢：20代後半
職種：輸入卸業

その会社は六本木にありました。海外から輸入したコスメを販売するなんてカッコいいという単純な理由から応募したのです。面接には社長と人事の男性が同席。正直、人事からの受けは良くありませんでした。

なぜなら採用後、ふとした感情の行き違いがあった時、「あなたは顔で採られたんですよ。社長は美人が好きだから」と皮肉を言われたのです。要するに、あたまはカラッポのくせにと言いたかったのだと思います。彼には仕事を辞める日まで苛められました。

その会社はさすがコスメ業界だけあって美女ばかり揃っていましたが、なぜか華やかさが微塵としてなく、社内にどんよりとした空気が漂っていました。女性の多い職場ってこんななのかなぁとあまり気にも留めなかったのですが、あるとき先輩が耳打ちしてくれたのです。彼女曰く、この会社は離職率が高くて毎月求人広告を出しても追いつかないと。

理由は、ずばり社長でした。元々、不動産業で財を成した方らしいのですが、実態は悪徳不動産屋。噂ではバブルの頃に散々土地転がしをされたそうです。では何故、こんなオシャレな会社を立ち上げたの？と尋ねると、「一人娘さんを某有名お嬢様学校へ入学させるため。

いくらなんでも不動産屋だと聞こえが悪いから、お上品な貿易商社の社長になりたかったみたい。本業で稼いでるから、この会社は幽霊会社みたいなもの。だから売り上げなんてあっても無くてもいいわけ」と絶望した顔で言われました。彼女は、前の会社では美容機器の辣腕セールスレディだったので、その会社では飼い殺し状態でした。そして、不満を爆発させ、2か月後には退社されてゆきました。

そんなわけで、人の出入りは激しかったのですが、仕事らしい仕事が無かったため、貧乏性の私はヒマが苦痛でしかたありませんでした。ですが、慣れとは恐ろしいもので、働かなくても給料は振り込まれる生活に少しずつ神経が麻痺していったのだと思います。

そんなある日、青天の霹靂が起こりました。海外の取引先から督促状が、また海外駐在の日本人スタッフからは給料未払いの問合せが届くようになったのです。当時、英語が出来るのは私だけだったため、時差の関係で毎晩11時過ぎまで一人で残業。メールやファックス、国際電話の対応に追われ、終いには心身のバランスを崩してしまいました。

社長はといえば「わたしは英語が話せない。知らない。全部部下が勝手にやった」の一点張り。「自分には責任が無い」と私に英語でメールさせるほどの厚顔無恥でした。結局、体調不良を理由に10カ月後退職しました。

私が辞めた翌年、新聞に小さな記事が載りました。社長でした。本業の不動産で詐欺を働き逮捕されたそうです。まもなく元の同僚から連絡が入り、あんなに可愛がっていた一人娘も事件のショックで過食症になり、お嬢さん学校も行けなくなってしまったということでした。因果応報というか、親の因果が子に報いというか。いずれにしても私の場合、自分から辞められて事なきを得ました。